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ヘルシンキ大のいい男~その3

 私たちのおしゃべりの最初の話題は、トビアスからの『お題』で「フィンランドの何が好きなのか」という質問だった。
 私がなんの躊躇もなく「ミカ・ハッキネンが好きなの!!」と答えると、トビアスは目を見開
いて「え!?マジ!?」と反応した。二クラスは「え?ごめん。今ちょっと聞こえなかった」と言った。トビアスがニクラスに「ミカ・ハッキネンが好きなんだって」と言うと、二クラスはしばしキョトンとした表情で固まり、「ホントに!?どこがいいの?」と言い、二人は大声で笑った。

 「彼ってそんなにカッコイイかな~ぁ?」と不思議そうにニクラス。トビアスも「まあ、『ステキ』という女の子もいるけど・・・」フィンランド語のティモ先生と同じ反応だった。私がムキになって「日本の女性F1ファンの間では一番人気があるんだよっ!!」と言うと、「日本人から見るとかっこいいの?」と聞かれた。これもティモ先生と同じ。・・・ふん。ホントに人気あるんだもん・・・

 次に二クラスが「ミュージシャンでは誰が好き?」と言うので、きっとジョン・テイラーなんて言ったら、ホントにただのミーハーだと思われるだろうし、さっきちょうど店内に曲もかかってたしで、次に好きな「ジョージ・マイケル」と答えてみた。そしたらニクラスは「うん。彼はポップ・スターだよね!!」と、ここはハズさずに済んだ。(ほっ)

 二クラスが「実は僕たち、バンド組んでるんだ。たまにライブハウスでやってるんだよ。僕はギターなんだ」と言った。トビアスが続けて「僕はキーボード兼みんなの荷物運び係」と言った。二クラスはすかさず「でも、とても素晴らしい『荷物運び』だよ、彼は。」と笑った。
 トビアスが「国からもらう学生向けの生活補助金をみんなで出し合って、ステージを借りて、入場料なんかで増やすんだよ。で、またみんなで分けるんだ。結構増えるんだよ~」とおどけて見せた。

 その話をきっかけに、日本とフィンランドの大学生活の話になった。ニクラスもトビアスも、「日本ではいくらぐらい学生に補助金が出るの?」と聞くので、「そんなもんもらえないよ」と言った。すると、「じゃあ、生活はどうするの?」と二人。「バイトするとか、親に出してもらうとか・・・」と私。
 すると二クラスが「ふ~ん。学費はタダなんでしょ?」(=フィンランドはほとんどタダみたいなもん)と聞いた。私が「タダじゃないよ」と言うと、「いくらぐらいなの?」・・・
 私は国公私立文系・理系・医師薬系、それぞれの平均と思われる金額を商取引してる売人のように電卓(単語機についてた機能)でいちいち出して見せた。その度に二人はこちらから見ると必要以上に驚いていた。

 ひと通りの金額を見て、二クラスがこう言った。「どうして教育を受けるのにお金を払わないといけないの?」・・・うっ・・・私は答えに詰まってしまった。確かにそうなの。そうなのよ。いくら義務教育じゃないとはいえ、これって不平等だよね。金が無い奴は教育を受けられないってことだもん。
 私は「そう言われると、私も不思議だな~と思う。」としか答えられなかった。そして3人で「う~む」と考え込んでしまった。

 その空白を打ち破るべく、トビアスが、今彼らの間で流行っている遊びを教えてくれた。卓球だ。
 「卓球台が1台しかないから、休み時間に争奪戦が大変なんだよ。いつもやってるゲームは、5対5に分かれて、一人打ったら、その人は反対側のコートの列に走って行くっていうやつなんだ。ミスした人はどんどん列から抜けていかなきゃいけないから、残りの人数が少なくなると大変なんだよ。」というトビアスの話に、二クラスがうんうんとうなづいている。
 トビアスは「キミの大学に卓球台はあった?」と私に聞いてきた。私が「20台くらいあったよ」と言うと、二人は「いいな~。それだけあったら、毎日あんなに疲れるゲームしなくて済むよね~。まあ、楽しいゲームではあるんだけど」と、しきりに「もっと卓球台が欲しい」を連発していた。

 次にお互いの専攻科目の話になった。二クラスは電子工学をやっていると言い、カバンの中の授業のノートを見せてくれた。記憶の片隅にかろうじてぼんやり残っていた『Ω(オーム)』とかの記号が並んでいる。完全文系人間の私は、これだけで頭がズキズキ、目がチカチカという拒否反応が出る。
 二クラスは「こういうの嫌いなんでしょ?」と笑いながらノートを閉じ、「将来、テレビ局のミキサー(音響効果なんかの人)になりたいんだ」と言い、トビアスが「だから彼は今、テレビ局でバイトしながら、ミキサーの勉強してるんだよ。」と付け加えた。

 一方、トビアスは「去年までは経済学を専攻してたんだけど、今年から物理学専攻に移ったんだ。こっちでは学生が自由に専攻を選べるし、変えられるんだよ。もちろん、他の大学で授業を取っても、単位として認められるんだ。日本ではどうなの?」と話した。
 「日本では入学した大学の学部・学科・専攻を4年間続けることになるんだよ。他の大学や学部に移りたい時には、試験を受けて、場合によってはそれまでの単位はナシになって、1年生から始めないといけないの。」(今は他大学と単位互換制を導入しているところもあるけど、あの時はなかったので)と私が答えると、トビアスが「最初からやり直しか~」とため息をついた。

 「キミは何を専攻してたの?」トビアスの質問に、「社会学。だから、北欧の社会制度とかはすごく興味あるんだ。いつかヘルシンキ大学に留学して、フィンランド語と社会学が勉強できたらいいんだけど・・・」と言うと、二人が「来ればいいじゃん!!学費もほとんどかからないし。一緒に卓球もできるよ!!すぐおいでよ。で、いつ来る?来月?」と言い出した。・・・

 ら、来月って・・・おいおい・・・と思いながら「いや~、まずはお金も貯めないといけないし、入学許可が下りるかどうかもわからないし・・・」と言うと、二人は「大丈夫だよ。学費はないみたいなもんだし、補助金も出るし。日本に帰ったらすぐ会社辞めて、こっちに来ればいいよ」と、あくまで脳天気な発想だ。
 唖然とする私をよそに、トビアスは二クラスに「寮に入れば、部屋探しもしなくていいね。・・・云々」と話を続けている。そして二クラスはそれを「ふむふむ」とうなづきながら聞いているのだった。

by gogofinland | 2005-01-23 15:34 | 1997 Finland